
介護の始まりは突然で、仕事の段取りとぶつかりがちです。カギは「感情の共有」より「運用の提案」。本記事は、上司・人事との面談に持参できる準備メモ/面談シナリオ/合意メモのテンプレと、働き方の選択肢(在宅・時短・休暇等)の整理を提供します。法制度や社内規程の詳細は会社・地域で異なるため、ここでは交渉の型と言い回しに絞って実装します。
① 面談前の準備:事実・期間・代替案を1枚に
「状況メモ」テンプレ(A4・1枚)
- 事実:家族の状態(診断の有無/兆し・通院・支援先)※プライバシー配慮版
- 想定期間:今後2〜4週間の見通し(検査・申請・在宅支援の開始時期)
- 勤務への影響:通院同伴/急な呼び出しの可能性/夕方以降の制約
- 代替案:在宅○日/週、時短△時間、コア時間変更、当面の業務優先度の提案
- 連絡体制:平日昼の連絡手段(チャット/携帯)と応答SLA
「業務棚卸し」テンプレ(共有スプレッド推奨)
- タスク名/締切/関係者/現状ステータス/リスク/引き継ぎ可否
- 優先A(止められない)/B(順延可)/C(一時停止)に色分け
- 代替担当候補/最小引き継ぎ手順リンク
② 面談シナリオ:3分で要点→確認→合意
言い回しテンプレ(そのまま読めます)
- 要点(60秒):
「家族の介護で今後2〜4週間、日中に通院同伴が入る可能性があります。
業務はA群を優先し、Bは順延提案、Cは一時停止の案です。」 - 提案(60秒):
「当面週2回の在宅と退勤を18時→17時へ時短。
コア時間は10:00–16:00なら出社/在宅いずれも対応可能です。」 - 確認(60秒):
「社内規程や人事手続きは御社基準に合わせたいです。
一時的な就業調整や休暇制度の可否、申請の流れをご教示ください。」
面談時の持ち物
- 状況メモ・業務棚卸し(紙1枚+共有リンク)
- 当面の連絡SLA(例:業務時間内30分以内返信)
- 人事・労務へ回せる要約(下の「合意メモ」ひな形)
③ 働き方の選択肢:在宅・時短・シフト・休暇
制度の名称・要件・給付は会社・地域で差があります。ここでは検討観点を整理します(詳細は人事規程を確認)。
在宅・時短・コア時間調整
- 在宅○日/週+出社○日/週のハイブリッド提案
- 就業時間短縮(例:1日−60分)/開始・終了時刻の前倒し/後ろ倒し
- コア時間の設定(例:10:00–16:00)で会議帯を安定化
シフト・担当替え
- 繁忙/閑散の時間帯に合わせた時間帯シフト
- 対外対応のある業務→内向き業務へ一時的な担当替え
- 期限の柔軟化(A/B/C優先度に沿って締切再設計)
休暇・休業の検討
- 短期の有給・積立休暇の活用
- 法定・社内の介護関連休暇/休業(要件・申請書類・給与/給付の有無を人事へ確認)
- 段階的復帰の枠組み(週○日のみ出社→段階拡大)
④ 運用ルール:連絡・会議・引き継ぎを“定常化”
連絡SLAと会議帯
- 業務時間内の返信目安(例:チャット30分/メール半日)
- 会議は火木の10:00–16:00に集約/15分ショート会議を基本
- 緊急連絡の定義・経路(電話→チャットの順など)
引き継ぎの標準(1枚仕様書)
- 目的/現状/ToDo/リスク/期限/関係者/保管場所URL
- 「ここまでやれば止まらない」最小手順の明文化
- 更新日は文頭に(例:「最終更新:2025-09-06」)
⑤ 合意メモ(人事回付用)ひな形
合意メモ(サンプル)
- 対象期間:2025/09/09〜2025/10/06(4週間・延長時は再協議)
- 勤務形態:在宅 火・木/出社 月・水・金/時短 −60分(17:00退勤)
- コア時間:10:00–16:00(会議は原則この時間内)
- 業務優先:A群継続/B群は順延/C群は一時停止
- 連絡SLA:業務時間内チャット30分以内/メール半日以内
- 見直し:週次レビュー→四週目に面談
※ 実際の制度適用・賃金・給付は会社規程・契約・地域の公的制度に依存します。人事・労務と必ず確認してください。
⑥ 家族との整合:勤務カレンダー×介護カレンダー
- 通院・デイ・ショート・ヘルパー訪問の日程を家族チャットに固定表示
- 仕事の会議帯と重なる日は、同席者の入替 or 予約枠の調整
- 「夜の決断禁止」「1万円超は事前合意」の家計ルールで突発支出を抑制
今日の5分でできること
- 「状況メモ」見出しだけ作る(事実/期間/影響/代替案/連絡体制)
- 来週の会議を火木10:00–16:00に寄せるドラフトを作成
- 合意メモのサンプルを社内向けに書き換えて保存
まとめ:感情で頼まず、運用で頼る
仕事と介護の両立は、善意だけでは続きません。事実・期間・代替案を1枚にまとめ、面談は短く具体に。働き方は在宅・時短・シフト・休暇を組み合わせ、合意を文書化。週次レビューで小さく調整すれば、職場の信頼も、家庭の安定も守れます。
よくある質問(FAQ)
Q. どのタイミングで上司に言うべき?
「業務影響が見込まれる2〜4週間前」または「見込まれた時点の最短」で。まずは状況メモの骨子だけ共有。
Q. 診断前で曖昧。何を伝える?
事実と期間の仮説だけでOK。「検査待ちで◯週」「通院同伴が◯回程度」など。確定情報と不確定の線引きを明示。
Q. 休暇・休業中の賃金や給付は?
会社規程と公的制度の組み合わせ次第。必ず人事・労務に確認し、社内申請の締切と必要書類をチェック。
感情で頼まず、運用で頼る——一緒に“続く形”を作りましょう。