
転倒、迷子、夜間の混乱——在宅介護の最大リスクは21–7時に集中します。本記事は、動線・照明・排泄・会話・緊急プロトコルをひとつの夜間設計にまとめた完全ガイド。2mピッチの誘導灯、排泄タイムテーブル、音読できる声かけスクリプト、トラブル時の分単位手順まで、今日から使えるテンプレで提供します。
原則:人を変えず、夜の“枠”を変える
- 導線はまっすぐ(寝室→トイレ)。ラグ・配線・低い家具は撤去。
- 光は点ではなく線(2〜3m等間隔の足元灯・誘導灯)。
- 声かけは短文+二択(共感→行動提案)。
- 排泄はタイミングで誘導(起床後/食後/就寝前/夜間覚醒時)。
- 緊急時は“分刻み”で(確認→保温→安全→連絡→記録)。
① 導線×照明:2mピッチの“光の道”を敷く
配置テンプレ(寝室→廊下→トイレ)
- 足元灯:2m間隔で直線配置(影が切れないよう壁寄せ)。
- 誘導灯:曲がり角/段差/トイレ前に矢印サインとセット。
- 寝室照明:直視の眩しさを避け間接光、ベッド脇に立ち上がり手すり。
- トイレ:ドアに大きな「トイレ」+ピクト+矢印、L字手すりor置き型フレーム。
NG→置き換え
- NG:点灯/消灯の段差が大きい白色LED → 置換:連続する暖色系の低照度ライン。
- NG:通路のラグ・延長コード → 置換:配線カバー+ラグ撤去。
② 排泄タイムテーブル:タイミングで“迷い”を消す
就寝前〜夜間の標準タイムテーブル
- 21:00 就寝ルーティン(歯磨き→トイレ→足元灯ON→ベッドへ)。水分は一口。
- 23:30 見回り①(寝具・室温・足元灯確認)。声かけ不要、音のみ最小。
- 02:00 見回り②(覚醒あり→トイレ誘導)。なければスルー。
- 05:30 見回り③(自然覚醒タイミング。起床前トイレの二択提案)。
※ 利尿薬や疾患で前後します。記録を1週間取り、各家庭の“自然なリズム”に合わせて時刻を±30分調整。
③ 声かけスクリプト(音読OK):共感→二択→合図
夜間覚醒(トイレ誘導)
- 共感:「起きちゃったね、寒かったね。」
- 二択:「今はお手洗いに行こう。スリッパと靴下、どっちで行く?」
- 合図:指差し+立ち上がり手すりへ手を添える。
帰宅願望(夜間・玄関方向へ)
- 共感:「心配だったね。用意してくれて助かるよ。」
- 二択:「今は温かいお茶にする? それともアルバム見る?」
- 合図:玄関と逆方向のテーブルへ誘導、座ってから会話。
不穏・徘徊の前兆(探し物)
- 共感:「探してるんだね。」
- 二択:「鍵はいつものトレイとジャケット、どっちを先に見る?」
- 合図:定位置トレイへ誘導、座位で検索に切り替える。
④ 緊急プロトコル:分刻みテンプレ(印刷推奨)
A. 転倒(意識あり・出血なし)
- 0–1分:動かさない・声かけで意識確認・痛み部位確認。
- 1–3分:冷え防止(ブランケット)・足元灯強化・障害物除去。
- 3–5分:手すり近くへ座位誘導(起立は無理強いしない)。
- 5–10分:歩行可否をチェック→不可なら在宅当番医/救急相談窓口へ電話。
- 10分〜:家族チャットへ「時間・状況・痛み部位・対応」を1行報告。
B. 徘徊(玄関に向かう)
- 0–1分:二重ロック確認、否定せず座位へ誘導。
- 1–3分:温かい飲み物を用意し、共感→二択のスクリプト。
- 3–5分:家内の目的地へ置き換え(「お茶→手紙→写真」)。
- 5–10分:再発防止点検(誘導灯・サイン・連絡カード携帯)。
C. 夜間せん妄(強い混乱)
- 0–1分:照明を一段明るく、名乗り+短文で安心づけ。
- 1–3分:刺激を減らし人を替える(交代)。
- 3–10分:座位で水分・保温、危険物を撤去。改善なし→医療窓口相談。
⑤ 21–7時の“時間割”:±30分の枠で運用
時刻 | 行動 | ポイント |
---|---|---|
21:00 | 就寝ルーティン | 歯磨き→トイレ→足元灯ON→ベッド。水分は一口。 |
23:30 | 見回り① | 布団・室温・足元灯を静かに確認。 |
02:00 | 見回り② | 覚醒時のみトイレ誘導。無理に起こさない。 |
05:30 | 見回り③ | 起床前トイレの二択提案→朝の準備を短く。 |
06:30 | 起床 | 日中リズムの起点。眩しさのない点灯。 |
⑥ 夜間装備・在庫“定数化”チェックリスト
- 足元灯×4/誘導灯×2(2mピッチで配置)
- 立ち上がり手すり/トイレL字手すり or 置き型フレーム
- ブランケット・温感パッド/室温計(目安20–24℃)
- 連絡カード(氏名・連絡先)常時携帯、玄関二重ロック
- ワイヤレス呼び出しベル/予備電池・延長コードは固定位置
⑦ 夜間“1行ログ”テンプレ(家族チャット用)
- 23:30 見回りOK/室温22℃/足元灯OK
- 02:10 覚醒→トイレ誘導/転倒なし/再入眠◯
- 05:40 自然覚醒→トイレ◯/朝食前の水分◯
⑧ よくある失敗→回避策
- 足元灯の数が足りず“暗点”ができる → 2mピッチに増設、角・段差に重点配置。
- 寝室で直視の眩しさ → 間接照明に置換、視軸より上の光を避ける。
- トイレ前で渋滞 → ドアに「トイレ」大文字+矢印、床マークで停止位置を可視化。
今日の5分でできること
- 寝室→トイレのラグと配線を撤去
- 足元灯を2mピッチで仮配置(本数が足りなくても“線”を意識)
- 「夜の声かけ」スクリプトをスマホに保存
まとめ:夜は“光と手順”で守る
夜間の不安は、環境とタイミングで大きく減らせます。2mピッチの光、排泄タイムテーブル、短文の二択、分刻みプロトコル。人を責めず、仕組みで守る——これが在宅介護の夜間設計です。
よくある質問(FAQ)
Q. 足元灯は何個から始めれば?
寝室→トイレの直線に最低4個。角とトイレ前に追加で2個が目安です。
Q. 夜間の帰宅願望が強い
玄関を明るくせず、家内の目的地(お茶・写真)へ置き換え。座位で会話に切替えましょう。
Q. トイレ誘導を嫌がる
「今は◯◯しよう」の短文+二択に。嫌がりが強い日は足浴→就寝前の温めで成功体験を作ります。
夜を設計すれば、昼が楽になる。