金利が下がった。周りが借り換えている。──それだけで動くと、手数料や残存期間、団信・諸費用によって「思ったほど得しない」ことが起きがちです。本稿は、損益分岐をシンプルに可視化しつつ、家計の心理的余白まで含めた実務的な判断軸をまとめます。
1. 借り換えを検討すべき4つの条件
- 金利差が十分にある:一般論では0.3〜0.5%pt以上が目安。ただし諸費用と残存期間で変動。
- 残高がまだ大きい:元本が減る初期〜中期は効果が出やすい。終盤は効果が縮小。
- 残存期間が十分:目安として10年以上残っていると、差益で諸費用を回収しやすい。
- 諸費用が抑えられる:事務手数料、保証料・繰上時精算、抵当権抹消/設定、印紙・登記などの合計が重いと逆転しやすい。
もう一つ重要なのは、借り換えで何を達成したいかの明確化です。総支払額の削減だけでなく、「毎月の返済負担(返済比率)を安定させる」「金利上昇リスクを抑える」「心理的に安心な返済テンポに整える」など、生活の質に直結する目標も同時に設定しましょう。
2. 損益分岐の考え方:差益 vs 諸費用
借り換えのコアは、差益(旧ローンの総支払予定 − 新ローンの総支払予定)と諸費用の比較です。差益が諸費用を上回る見込みで、かつ生活の安定に寄与するなら“Go”の可能性が高まります。
ざっくり試算のフレーム
- 旧ローンの残高/金利/残存期間から、完済までの総支払予定を推算。
- 新ローンの金利/期間/手数料を当てて、同じく総支払予定を算出。
- 差=(旧)総支払予定 −(新)総支払予定。
- 差 − 諸費用 がプラスで、かつ毎月の返済が家計にとって“振れにくい”なら前向きに。
くわしい比較は、まねTama 住宅ローンシミュレーションでシナリオ別に確認できます(残期間/金利/手数料/繰上の組合せを比較)。
注意点は、固定/変動の金利タイプが異なる比較では、将来の金利変動をどう扱うかで結論が変わること。楽観/中立/慎重の3パターンを置き、最悪でも家計が詰まらないラインを基準にしましょう。
3. 固定/変動の切替と「返済比率」の安定化
借り換えは、単なる「金利引き下げ」ではなく、家計の耐性チューニングでもあります。指標はシンプルに、返済比率=(元利返済額 ÷ 手取り収入)。教育費ピークや転勤、介護フェーズが重なる年に、返済比率が急上昇しない構成にできるかが肝です。
- 固定を増やす:金利上昇耐性↑、初期金利はやや高めでも心理的余白を確保。
- 期間を延ばす:毎月負担↓、総支払は増。教育費ピークを越えたら繰上で帳尻を合わせる手も。
- 期間を短く:総支払↓、毎月負担↑。収入の安定性と他費目の見通しが前提。
借り換え後の繰上返済ルール(年○回・上限○万円・緊急資金○ヶ月分は死守)を最初に決めると、家計運営がぶれません。
4. 残存期間が短いと“差が出にくい”理由
返済は序盤ほど金利割合が大きく、終盤ほど元金割合が大きくなります。つまり残存期間が短い=利息部分が相対的に減っているため、金利差のインパクトが小さくなりがち。ここで諸費用が重いと、差益<諸費用になりやすい。逆に、残期間が十分あって残高も大きいほど差が出やすい構造です。
「あと数年で完済」なら、借り換えよりも繰上返済+現金余力の維持の方が合理的なケースもあります(教育費や住み替え、介護フェーズに備えるという観点)。
5. 心理的余白:キャッシュの振れ幅を減らす価値
“総額の最小化”だけに囚われると、可処分の自由度や意思決定の安心感を削りがち。たとえば、固定比率を上げて返済額の振れ幅を小さくし、「月家計の1〜1.5か月分の現金」を常時キープできるなら、学び・体験・健康に回せる選択肢が増えます。家計の目的は、数字に勝つことではなく、暮らしが回り続けること。
借り換え判断は、数値の差益+暮らしの余白の二軸で評価しましょう。
6. 実務フロー:資料集め→試算→意思決定
- 現ローンの把握:残高、金利タイプ、優遇幅、残存期間、ボーナス返済、繰上条件、団信、保証料精算方式。
- 候補ローンの条件整理:金利(全期間/当初)、手数料(定率/定額)、保証料、団信(上乗せの有無)、繰上手数料。
- シミュレーション:まねTama 住宅ローンシミュレーションで、現状/借り換え/繰上併用の3パターン以上を比較。
- ストレステスト:金利+1.0pt・収入▲10%・教育費ピーク重なり時の返済比率を確認。
- 意思決定:「差益−諸費用」がプラス、かつ返済比率が“詰まらない”ラインに入れば実行。入らなければ保留。
- 運用ルール化:借り換え後の繰上方針・現金クッションの下限・年1回の見直し日を決めてカレンダー固定。
よくある質問
固定→変動へ切り替えるのは危険?
危険ではありませんが、返済比率が上振れしない仕立てと、現金クッションの確保が前提。シナリオ別に返済額の振れ幅を確認しましょう。
事務手数料が高い銀行でも得になる?
なり得ます。差益が諸費用を大きく上回れば合理的。ただし残期間が短い場合は逆転しやすいので要試算です。
団信の特約(がん等)はどう扱う?
家族構成や公的保障・既契約の保険と重複しないよう全体で最適化。上乗せ分の保険料と価値のバランスを評価します。
まとめ:差益だけでなく、“回る家計”に寄与するかで決める
借り換えは、単なる金利競争ではありません。諸費用・残存期間・返済比率・心理的余白まで含めた総合判断で、“詰まらない家計”をつくりましょう。迷ったら、シミュレーションで見える化→年1回の見直しを“ルーチン化”するのが近道です。