ハザード、耐震、省エネ、保険、備蓄。キーワードは多いけれど、最終的に守りたいのは家計の連続性と日常の暮らしです。本稿では、住まい選びと見直しに防災視点を組み込み、ムリのない負担で“詰まらない家計”を守る実務フレームをまとめます。
1. リスクの全体像:被害額より「家計の連続性」
防災の評価は、しばしば「最大被害額」に目が行きます。しかし家計運営の観点では、復旧までの期間と現金流出のパターンが本質です。すなわち、①収入途絶(休業/通勤不能)と②臨時支出(修理/一時避難/代替通勤/育児代替)をどれだけ短く・小さくできるか。ここに“在宅継続性(Shelter-in-Place)”の発想を入れると、立地・建物・保険・備えが一本の線でつながり、ムダな重複や過少投資を避けられます。
結論から言うと、家計に組み込む順番は「立地 > 建物 > 保険 > 備え」。上流ほど意思決定の影響が大きく、下流ほど微調整で効きます。上流で無理をすると、下流でどれだけ頑張っても穴埋めが難しくなります。
2. 立地リスク:地形/標高/ハザードの基本リテラシー
立地は“動かせないパラメータ”。地形(旧河道・谷地形・盛土/切土)、標高差、近隣の閉鎖性(袋小路・橋/堤防の依存度)を把握しましょう。洪水・内水・土砂・津波・地震(表層地盤)といった複数ハザードを重ね合わせ、「発生頻度×影響度×復旧時間」で直感的に三段階(低/中/高)評価します。低リスクが理想ですが、通勤圏や価格の制約で中〜高を選ぶ場合も、次章以降の“建物・保険・備え”で復旧時間を短縮できるかがポイントです。
さらに、道路高低差・排水方向、避難所や幹線道路までのアクセス、学校/保育園の危機対応力も生活の実感として重要。地図アプリの地形表示、自治体の公開データ、過去の冠水・停電事例のニュースを横断して、「雨風に弱い動線がどこか」まで落とし込むと、後の備えが絞れます。
3. 建物性能:耐震×断熱×設備の“在宅継続性”
住まいの“強さ”は、倒れない(耐震)だけでなく、住み続けられる(断熱・設備)まで含めた総合力です。戸建てなら耐震等級・接合金物・基礎、屋根材(飛散・落下リスク)、外皮性能(断熱/気密)を確認。マンションなら耐震基準・構造(RC/SRC)、管理組合の修繕履歴・残高、バルコニー排水・非常電源・受水槽の仕様を確認します。停電・断水でも最低限の生活を保てるか──ここが在宅継続性のコアです。
- 停電対策:冷蔵庫・通信・照明の優先順位。非常用電源(モバイルバッテリ/ポータブル電源)、太陽光+(できれば)蓄電の導入は“日常使い”と兼用できると家計効率が上がります。
- 断水対策:受水槽/直結方式の確認。簡易トイレ、給水タンクの保管スペースを計画段階で確保。
- 断熱・換気:夏の停電でも室温上昇を緩和できる外皮性能や、窓の遮熱/通風計画は健康リスク低減に直結。
これらは高価な装備の“全部盛り”ではなく、地域リスク×家計に合わせた優先順位づけが鍵。たとえば水害中〜高なら電源よりも垂直避難と片付け容易性(床材・巾木・収納の高さ)を優先、地震中〜高なら家具固定・窓飛散対策が先など、順序でコストが変わります。
4. 保険設計:火災/水災/地震──免責と自己負担の最適点
保険は最後の下流工程。立地と建物で下げきれない残余リスクを引き受けます。火災保険の水災補償や風災・ひょう災・雪災の扱い、類焼損害、地震保険の付帯割合(建物/家財)、免責金額の設定で保険料と自己負担のバランスを取りましょう。ポイントは、「頻度の高い小損は自己負担、まれな大損は保険」の原則を守ること。免責を上げることで保険料を抑え、その分を現金クッションとしてプールすると、トータルで家計は安定します。
マンションの場合は共用部の保険・管理組合の方針も確認必須。水濡れ事故・給排水逆流・個人賠償の範囲など、戸別保険の補完関係を整理すると、重複や漏れを防げます。
5. 備えの実務:72時間→7日の分散レジリエンス
「家にあるものでしのぐ」現実路線が長続きのコツ。ローリングストック(普段使いの食料・水・消耗品を少し多めに買い、使いながら補充)を基本に、72時間(初動)→7日(長引いた時)へ段階化します。発電・通信・照明・水・トイレ・衛生・保温を最低限ユニット化して収納場所を決め、年2回の入替日をカレンダーに“固定イベント”として入れましょう。
- 電源:スマホ/PC×数回充電、照明、扇風機。USB充電器・車載給電も併用。
- 水・食:1人1日3L目安。常温保存できる主食+タンパク+野菜系スープ。
- トイレ:簡易トイレ、消臭/凝固剤。集合住宅は特に優先度高。
- 情報:ラジオ/防災アプリ、家族の集合ルール。
- 片付け:床上浸水想定なら高所収納・防水ケース。掃除用品をひとまとめに。
「備蓄=支出増」ではなく、生活コストの前倒しとして捉えると継続できます。非常用だけの“特別品”に寄りすぎないのがコツです。
6. 意思決定フレーム:許容被害額と負担比率で考える
家計に落とす最後のステップは、「許容被害額(1回あたり/年あたり)」と「自己負担比率」を決めること。例:年あたり許容20万円、うち自己負担60%、保険40%。この方針に合わせて、保険の免責・補償範囲、備蓄量、非常電源のグレードを決めます。数字でガードレールを作ると、“過度な心配による買いすぎ”や“過少備え”を避けられます。
併せて、まねTama式ライフプランと住宅ローンシミュレーションで収入減/支出増のストレステスト(3パターン程度)を回し、キャッシュ余白(月家計の1〜1.5か月分)を確保できるかを確認。難しければ、立地条件の見直し(同エリア内で標高差を取る等)や、保険の免責調整・備蓄を段階投資に切り替えましょう。
まとめ:備えは“重装備”ではなく、暮らしに沿う最適化
立地→建物→保険→備えの順で、在宅継続性と家計の余白を最大化しましょう。最小コストで最大の安心へ。まねTamaは、地図づくりと実装までやさしく伴走します。