「前からあった話なのに、報道が増えただけでは?」と思う方もいるかもしれません。
けれど、実際のデータを見ると、ここ数年は明らかに被害が増えています。
1. 数字が示す、現実の変化
環境省の統計によると、クマによる人身被害は次のように推移しています。
- 2023年度:198件(被害者219人・死亡6人)=過去最多
- 2024年度:82件(85人・死亡3人)=一時的な減少
- 2025年度:9月末時点ですでに99件(108人・死亡5人)=再び増加傾向
つまり「報道が増えたから目立っている」のではなく、実際に被害そのものが増えているのです。
特に2023年の秋、東北地方ではどんぐりなどの木の実が不作となり、クマが山を下りて人里に現れるケースが多発しましたとみられています。
2. クマが人里に近づく、3つの理由
環境省や各地の調査では、次のような要因が挙げられています。
- 餌(木の実)の凶作──自然のリズムが乱れると、クマは食べ物を求めて移動します。
- 個体数・分布域の拡大──保護政策や気候の変化もあり、クマの生息範囲が広がっています。
- 人の生活圏の変化──過疎化や里山の管理不足、狩猟者の減少などにより、かつての「境界」があいまいに。
つまり、人と自然の「距離」が変わったことで、思いがけない形で生活圏が重なり始めているのです。
3. ソーラーパネル開発との関係は?
「メガソーラーで森が削られたから、クマが降りてきたのでは?」──そんな声を耳にすることもあります。
確かに、開発によって森林が伐採されれば、一時的にクマのすみかや通り道が減ることはあります。
けれど、現時点で「ソーラー開発=被害の直接原因」と断言できる研究結果はありません。
一方で、間接的な影響は否定できません。
森が点在して途切れると、クマの移動経路が変わり、結果的に人里を通るようになることがあります。
また、伐採後の土地に生えるヤマグワやクリなどが新たな「餌場」になるケースも。
このように、開発そのものよりも「土地利用の変化」全体がクマの行動パターンを変えると考えられています。
つまり問題は、ソーラー開発そのものというより、
「人の暮らしがどこまで自然の奥に入り込み、風景をどう塗り替えてきたか」。
その“積み重ね”が、野生動物の行動を少しずつ変えているのかもしれません。
4. クマは思っているより遠くまで動く
こうした環境変化の影響を考えるうえで、見落としがちなのがクマの移動範囲の広さです。
ヒグマのオスは数百平方キロ、ツキノワグマでも50〜100平方キロという広い行動圏を持ち、
1日に十数キロ移動することも珍しくないと云われています。
ですから、ある地域で開発があったからといって、その周辺だけを原因とするのは現実的ではないでしょう。
それでも、道路や宅地、再エネ施設などの点的な開発が増えるほど、
クマにとっての“安全な通り道”は減り、結果的に人間の生活圏を横切らざるを得なくなる。
このように、点の開発が積み重なって「面としての環境変化」を生み出している──
そこにこそ、いまの問題の根があると云えるのではないでしょうか。
5. “人と自然の距離”をどう保つか
被害が起きると、「駆除すべき」「保護すべき」と意見が分かれがちです。
けれど、どちらの立場も、根底にある課題──人間側の環境変化──を見落としがちです。
本当に必要なのは、「安全か、共存か」という二択ではなく、
里山の管理・開発のあり方・エネルギー政策などを含めた地域全体のデザインを見直すこと。
子どもたちが安心して暮らせる未来のために、
「自然とどう向き合うか」を一人ひとりが考えるタイミングに来ているのかもしれません。
まとめ
- クマ被害は報道のせいではなく、実際に増えている。
- 原因は餌の不作・生息域拡大・人間の生活圏の変化。
- ソーラー開発は直接の原因ではないが、環境変化の一因となる可能性がある。
- 「人と自然の距離」をどう設計するかが、今後の課題。
自然とともに暮らすということは、「便利さを手放す」ことではなく、
「環境と調和した暮らし方を再設計する」こと。
その意識が、地域の安全にも未来の豊かさにもつながっていくはずです。
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