
認知症のある方の「困った行動」は、意思や性格の問題ではなく、認知機能の変化と環境のギャップから生まれることが少なくありません。本記事は、在宅で今日から取り入れられる環境調整(動線・表示・照明)×声かけの型(共感→提案)×1日のリズム(時間割)の三段構えで、混乱と摩擦を減らす“暮らしの設計”をまとめます。完璧に矯正するのではなく、迷いにくく、失敗しにくい家と会話に変えていきましょう。
① 環境を整える:動線・表示・照明で“迷い”を減らす
動線の基本(台所・トイレ・寝室)
- トイレへの道はまっすぐ・何も置かない(ラグ・配線・段差を撤去)。
- 寝室⇄トイレに手すり or 家具で“つかまれる場所”を連続配置。
- 台所は火元周辺の物を減らし、使用中の道具だけ見える位置に。
表示の工夫(言葉+矢印+色)
- 扉に大きな文字+ピクト(例:「トイレ」+矢印)。
- 衣類収納は写真ラベル(上・下・下着)。透明ボックスを活用。
- 薬・歯ブラシは1セットだけ見える位置へ。他は隠す=迷いを減らす。
照明(夜間の不安と転倒対策)
- 足元灯・誘導灯を寝室⇄トイレに等間隔で配置。
- 夕方〜夜は黄昏不安対策に、部屋を早めに明るく。
- 寝室は直視まぶしさを避ける(間接照明がおすすめ)。
② 声かけの型:正しさを競わず“安心→次の一歩”
基本式:共感→提案(選択肢は2つまで)
- 共感:「心配だったね」「困ったね」「寒かったね」。
- 提案:「今は◯◯しよう」「AとB、どっちがいい?」(二択)。
- 説明は短く、肯定から行動へつなげる。
NG→置き換え例
- NG「違うよ、忘れてるよ」→ 置き換え「そう感じたんだね。今は◯◯しよう(A/B)」
- NG「早くして」→ 置き換え「一緒に上着を着よう。こっちとこっち、どっち?」
- NG 長い説明→ 置き換え 短い肯定+行動提案(手振り・指差し)
“探し物”の頻発に効く3手
- カギ・財布・メガネの定位置ボード(写真ラベル+マジックテープ)。
- 室内GPS代わりに、目立つ色のトレイを各部屋へ。
- 探しながら歩く危険を減らすため、声かけは座ってから行う。
③ リズムを整える:±30分の規則性と“例外日の扱い”
1日の“枠”テンプレ
- 朝食 7:30|昼食 12:00|夕食 18:00(所要20〜30分)。
- 排泄声かけ:起床後/食後15〜30分/就寝前。
- 活動 15〜30分(散歩・家事参加・手作業)、昼寝は30分目安。
- 就寝 21:30(±30分)|就寝前ルーティン固定。
“例外日”のリセット3ステップ
- 原因の仮説を1行(外出疲れ/体調/環境変化)。
- 今夜は短縮版ルーティン(入浴→足浴など置換)。
- 翌朝、朝食時刻を優先して時間割へ戻る。
④ よくある困りごとを“設計”で解く
夕方の不安・帰宅願望(黄昏症状)
- 16時前に部屋を明るく、軽い活動(写真・音楽・折り紙)。
- 窓の遮光・鏡の布掛け(反射像で不安が増える場合あり)。
- 声かけは肯定+二択:「心配だったね。お茶にする? それとも写真見る?」
入浴の拒否
- 入浴→足浴や清拭へ置換し、成功体験を積む。
- 洗面所の温度を上げ、最初の一歩を温かく(寒さは大敵)。
- 「今は◯◯しよう」(短文)+タオルを手渡しで行動へ。
夜間覚醒・徘徊
- 寝室⇄トイレの誘導灯と障害物撤去。
- 玄関は二重ロック+連絡カード(氏名・連絡先)を常時携帯。
- 会話を長引かせず、排泄・水分・寒暖だけ確認してベッドへ誘導。
⑤ 1日の掲示と家族連携:見える化で迷いを減らす
壁掲示の作り方
- 「今日の日付・曜日・天気」「次の予定」を大きな文字で。
- 食事・服薬・入浴のチェック欄(□)を作り、終わったら一緒にチェック。
- 家族の在宅/外出予定は写真+名前で掲示。
家族チャットの運用
- 1日1回、写真1枚+良かった1つ/困った1つを共有。
- 変更は日付入りで掲示も更新(「入浴→足浴へ変更 9/6」)。
- 支払い・契約は夜の決断禁止&「1万円超は事前合意」。
今日の5分でできること
- 寝室⇄トイレの動線からラグと配線を撤去
- 扉に「トイレ」ラベルと矢印を貼る
- 声かけの置き換え例を1つだけ覚える
まとめ:人を変えず、環境と手順を変える
認知症のある方との暮らしで大切なのは、人を責めない・矯正しないこと。環境(動線・表示・照明)を整え、声かけ(共感→提案)を短く優しく、リズム(時間割)で戻る場所を作る。これだけで混乱と摩擦は目に見えて減ります。続けやすい“小さな一手”から始めましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 反発が強いときはどうすれば?
時間帯を変える・人を替える・選択肢を2つに減らすのが基本。今日は足浴など短縮版に切り替えましょう。
Q. 掲示をすぐ剥がしてしまいます
掲示は少数精鋭で。剥がしづらい場所=目線より少し上に1枚だけ。写真ラベルで置き換えても効果的です。
Q. 会話が長引いて疲れます
正しさの説明をやめ、短い共感+動作の提案に。座ってから話すと落ち着きやすく、転倒リスクも下がります。
人を変えず、環境と手順を変える——今日の一手から始めましょう。