
近年、「医療保険やがん保険は不要」といった主張がネットや書籍などで多く見られるようになりました。
たしかに、一定の条件下ではその意見には一理あります。
しかし、それがすべての人にとって正しいとは限りません。
私たちは皆、職業や家族構成、社会保障の受けられる範囲、さらには心理的傾向まで異なります。
そうした違いを踏まえずに「保険は不要」と断定してしまうのは、あまりに乱暴な議論ではないでしょうか。
「医療保険は不要」論の背景
不要論の根拠として、主に以下のような理由が挙げられます。
- 公的医療保険制度が充実している(例:高額療養費制度)
- 入院日数は年々減少しており、長期入院のリスクは下がっている
- 数十万円程度であれば、貯蓄でカバーできる
- 長期的に見て、支払った保険料より給付金が少ないことが多い
このような見解は、主に「会社員かつ比較的余裕のある家庭」を前提に語られています。
でも、本当にそれで大丈夫?――前提条件が異なれば話は変わる
1. 職業・収入形態の違い
- 自営業・フリーランスの方は、会社員のように「傷病手当金」などの収入補償がありません。
- 非正規雇用・契約社員なども福利厚生が不十分で、労災や傷病時の保障が弱い傾向があります。
2. 家族構成・ライフステージ
- 小さなお子さんがいる家庭では、親の入院が家計と育児の両面でダメージになり得ます。
- 高齢期や退職後の無職期間は、公的保障だけではカバーしきれない医療費がかさむ可能性があります。
3. 精神的・行動経済学的要素
- どれだけ合理的であっても、人は「不安」に弱い生き物です。
- 保険に加入しておくことで「いざというときの安心感」が得られ、心理的に安定するという効果も無視できません。
医療保険が「不要」と言える人の特徴
以下のような条件を満たしている方であれば、医療保険は必ずしも必要ではないかもしれません。
- 預貯金や投資などで数百万円の流動資産がある
- 公的保障の仕組みと限界を正確に理解している
- 働けなくなった場合の収入補填手段を別に持っている
- リスクを冷静に受け止められる精神的スタンスがある
このような方にとっては、たしかに「掛け捨て保険は損」という判断になるのも合理的です。
では、自分にとって必要かどうかをどう判断すればいい?
医療保険・がん保険の是非を考える際には、以下のような観点で点検してみることをおすすめします。
観点 | チェックポイント |
---|---|
社会保障 | 傷病手当金・労災・高額療養費制度の内容と適用条件 |
家計体力 | 預貯金・緊急予備費の額、流動性 |
職業リスク | 収入の安定性、長期入院時の収入補填手段の有無 |
家族構成 | 扶養家族の有無、介護や育児負担との兼ね合い |
心理的側面 | 不安に対する耐性、保険に頼らず自己管理できるか |
結論:保険は「不要」かどうかではなく、「自分に必要かどうか」
「保険は不要だ」と断定的に語る論者の多くは、自分の立場やライフスタイルに合った前提で話をしているにすぎません。
逆に言えば、あなたがその人と同じ環境・条件にいない限り、そのアドバイスは鵜呑みにすべきではないということです。
合理的な判断とは、「他人の正解」ではなく、「自分の現実」を見つめた先にあるものです。
◎ 最後に
「医療保険やがん保険は要らないかもしれない」――これはあくまでひとつの可能性にすぎません。
むしろ、自分の生活や将来のリスクに照らして、「必要最低限でいいから備えておこう」と考える方が、実はずっと現実的で堅実な判断ではないでしょうか。